大規模小売業の合理化にともなう事務所機能の空間的再編
 1990年代に入っての平成不況下で多くの日本企業はリストラクチャリングを迫られている。これまでの不況においては現業部門の合理化で対応してきたが、今次不況下では管理運営部門などの間接部門、つまり事務所機能に関わる部分での合理化が求められている。本研究では一大企業の事例を取りあげて、景気変動(不況)への企業の事務所部門での対応を明らかにすることを目的とする。
 対象は中京地区を地盤とする大規模小売業であるユニー(株)とする。選択理由としては主に2つのことがある。ひとつはユニーが事務所機能の合理化に関して、本社従業員をおよそ半減させるなど先進的かつ顕著な事例だからである。ふたつめの理由としては、事務所機能の合理化を進めるにあたり、大都市の都心から郊外への本社移転、あるいは従業員の再配置においては居住地を考慮に入れるなど、空間的なポイントが重要な要素として作用したことが認められるからである。分析においては、事務所移転による固定費(賃借料)削減、接触の維持、従業員の再配置などの点に着目した。
 ユニーには本社(+中京本部)の他、東京、静岡、北陸の地区本部がある。1993年秋までにいずれも人員削減を進めるとともに、固定費削減を目的としそれぞれ自社物件内への移転を実施した(第1表)。それにより合計12.1億円(年額)の賃借料が不要となった。移転コストとしては原状復帰費、引越費、改装費等、合計17.0億円がかかったが、これは従来の賃借料の1.4年分に過ぎない。  接触の維持については最も大規模な変化であった本社を事例として検討した。ユニー本社は1993年10月に名古屋駅前から北西の郊外にある稲沢市に移転した(第1図)。ユニー本社において最多の社外事業所との接触は取引業者(商品納入業者)との商談である。この商談は毎週月・火曜日に主に本社において行われ約400社余りが訪れる。1995年10月16、17日に来社した取引業者へのアンケート調査では、分析対象の401社の取引業者所在地は名古屋市内が半数以上(210社)を占めるが、近畿地方(62社)、関東地方(37社)の業者も多い。名古屋駅前からの移転により取引業者の来社所要時間は平均58.1分から85.8分へとおよそ47.8%の増加となり、時間コスト、移動コストの増加をもたらした。ユニー本社側からの接触としては店舗の巡回と取引先訪問がある。1995年10月16〜23日の商品部従業員の行動記録を分析した結果、巡回店舗が中京地区に分散している一方で、訪問した取引先は名古屋市都心部、東京、大阪に集中していることが明らかになった。しかしながら商品部では直行直帰制が導入されているため本社移転の影響は比較的少なくてすむ。また、官公庁との接触は主に店舗の新増設の際に頻繁となるが、多くは出店先の自治体、商工会議所などであり分散している。以上から都心部の優位性が改めて確認されながら、コスト削減が優先され、本社が郊外に移転しても接触の維持がユニー側からすれば困難ではないことが認められる。
 従業員の再配置については、本社人員は1,165人(1993年6月)から532人(1995年1月)へと半減したのにともない従業員の本社から店舗への再配置が行われた。異動先の決定にあたっては通勤距離の短縮が考慮された(第2図)。また、店長の移動に際しても同様に居住地への近接が考慮された。大規模な異動が行われた1993年7月1日付の異動について旧本社従業員の再配置先を示したのが第 図である。
 本社での大幅人員削減分を店舗への再配置により吸収することは現業部門での生産性低下を意味する。これに対してユニーでは新規採用を93年までの1割程度に抑えるとともに積極的な店舗の新増設を進めることで、単なる人員削減による後ろ向きのリストラではなく前向きのリストラを進めたと言えよう。
(日本地理学会1996年春季学術大会予稿集原稿)