国境にて

 ロサンゼルスから約2,300km、33時間余りかけてシアトルに向かって走った列車は、およそ2時間遅れて20時半頃、シアトル(ワシントン州)のキングステーションに到着した。列車に乗るアメリカ人は2時間くらいの遅れなんて全然気にしない。
 そこからバスに乗ってバンクーバー(カナダ・ブリティッシュコロンビア州)に向かう。大型バスの乗客は10人くらい。シアトルからバンクーバーへのバスはアムトラックによる連絡バス(Amtrak Conecting Bus)であり、U.S.A.レイルパス で、そのまま追加料金を払う必要もなく乗ることができる。3〜4時間くらいかかるようなので、到着は真夜中を過ぎるだろう。だから、アメリカ人は2時間くらいの遅れは全然気にしなくても、私には大いに気になるところである。着いたら、その日泊まるホテルをどこか探さなくてはならない。 23時半頃、いつの間にかカナダの国境に着いていた。「全員一度降りて、荷物を持って入国審査・税関に行って下さい」と言われた、と確信はできないが、周りの人の動きからするとそう思われた。入国審査とかは、すんなり通してくれるのか心配なところに加えて、バスを降りたときにコンタクトが外れて落ちた。“どうしてこんな時に?” この時の気分は最低。でも、そうしたら一緒のバスに乗っていた女の人が、「コンタクトレンズ、落としたの?」と言って、一緒に探してくれてすぐに見つかった。横から見てて、やはりコンタクトレンズを探してることというのはわかるものらしい 。
 税関では、他の人はかばんを開けて、化粧品とかについて結構細かく聞かれているようにも見えたが、私はかばんも開けず「日本から来たの?」と聞かれ、アルコール・タバコ・武器(例えば、ガン(gun)とかシュリケン(shuriken)とかだって)は持ってないか聞かれただけで、意外なほどすんなりと通してくれた。
 入国審査のときは審査官の人に、入国の目的を聞かれる。それで「Sightseeing、Sightseeing、Sightseeing」と頭の中で、何回も予習をする。ところが、審査官、突然「モクテキハ?」と聞くものだから、思わず「Sightseeing!!」なんて答えてしまって、すぐに「じゃなくて、観光です」って言い直したのだけど、分かってもらえただろうか。
 バスは夜のフリーウェイを、かなりのスピードで快調に飛ばしている。フリーウェイを降りてバンクーバーの街に近づくにつれて、私の緊張感は高まってくる。泊まるところが見つからなかったらどうしよう。デニーズ のレストランは24時間営業だから、最悪の場合は朝までデニーズにいようかなんて考えながら、前を通るたびに場所を頭にインプットしようとする。近くにデニーズもなさそうだったら、公園かどこかで朝を待つしかないのだろうか。アメリカじゃないからそんなに危なくはないだろう、なんて不安はいっぱい。街は暗くひっそりとしていて人影もまばら。  バスは“サンドマン・イン(Sandman Inn)”というホテルの前、特にバスターミナルでもない街角で終着。バスの運転手さんに尋ねた。「この近くのホテルを知りませんか?」って。教えてくれました。近くにある安くてきれいなホテルを。サンドマン・インのフロントで観光マップを取り、こう行って、こう行ったところに“キングストン・ホテル”というところがあるからと説明付で。ホテルのフロントで別のホテルの話をする私達。
 真夜中のダウンタウンを、言われたとおりに歩く。その場所に着いた。“キングストン・ホテル”とある。でも、なんか雰囲気が違う。しかし、場所はここに違いない。「すみません、キングストン・ホテルはここですか?」 “えっ?” そこはバーだった。お店のお姉さんが「ホテルはこの上よ」と教えてくれた。そういうことだったのか。
 その日と翌日バンクーバーに泊まり、次の早朝のバスでアメリカに戻ったので、私のカナダ滞在はわずか30数時間に過ぎない。これだけドキドキしながら、せっかくカナダまで行ったのだから、もう少しいれば良かったかもしれない。