知の修練場(1994年度名古屋大学大学院文学研究科案内所収)

 私達の地理学研究室では、1週間の締めくくりである毎週金曜日の午後に、大学院ゼミ(地理学演習)が開かれる。先生方および院生のフルメンバーが集う。そこで一人の院生が、自分の研究について約40〜50分かけて発表し、休憩をはさんで、また40分程、質問・討論が続く。
 1年に3回くらい順番が回ってくるこの大学院ゼミでの発表は、特に、我々のような自分の研究スタイルが確立しておらず、将来に対する道筋がついていない大学院前期課程にあるものにとっては、一種の極限状態にまで陥る、非常に厳しいものである。1ヶ月くらい前になると自己の中で緊張感が漂い始め、直前の1週間前になると、もう他事は何も手がつかない。そうして自分なりに頑張ってはみても、本番では、ほぼ間違いなく“火だるま”となる。普段のニコニコした優しい先生はどこへやら…。返答に窮して、頭の中が真っ白になってしまうこともしばしばである。
 特に、研究の枠組み(フレームワーク)についての不備な点を指摘されることが多いように思う。対象が細分化している地理学であっても、経験の幅というか、感覚的に問題点が見えるのだろう。おかげで私達は、半泣き気分になりながらも、次の目標を持って再出発できるのである。
 大学院は私にとって厳しいながらも、自分の何か新しいものを引き出してくれる、そんな感じのする「知の修練場」である。(1994年)